「家はある。でも登記がない」左官職人の義父が建てた女房の実家で発覚した未登記事件

行政書士・土地家屋調査士の佐藤です。

「この家、ひょっとして登記されていないんじゃないか?」

そう気づいたきっかけは、法務局で登記簿を調べたことでも、専門的な資料を見たことでもありません。

固定資産税の納付書でした。

これは、実際に私の妻の実家で起きた話です。

義父の終活から始まった

妻の父は左官職人でした。

昭和の職人気質という言葉がよく似合う、なかなか頑固な人でもありました。

その義父に認知症の症状が現れ、主治医からも余命についての話が出るようになり、家族で少しずつ終活を始めることになりました。

妻と一緒に実家へ行き、さまざまな書類を確認していたときのことです。

私は固定資産税の納付書を見て、違和感を覚えました。

建物の欄が空白だったのです。

「……あれ?」

土地については固定資産税を払っています。

しかし、建物についての記載が見当たりません。

そこで私の頭に浮かんだのが、

「この建物、ひょっとして未登記では?」

という可能性でした。

確認してみると、やはり建物は登記されていませんでした。

一番怒ったのは妻の母だった

この事実が判明して、一番怒ったのは妻……ではありません。

妻の母でした。

「あんなに『この家は俺が建てたんだ!』って威張っていたのに!💢」

長年連れ添った妻だからこその怒りでしょう。

確かに家は建っています。

何十年も家族がそこで生活してきました。

土地の固定資産税も払ってきました。

ところが、肝心の建物の登記がない。

「家があること」と「その家が登記されていること」は、別の話なのです。

昭和の家では、未登記建物が残っていることがある

現在の感覚では、

「家を建てたのに登記していないなんて、そんなことがあるの?」

と思われるかもしれません。

しかし、昔からある建物では、未登記のまま現在まで残っているケースがあります。

特に、

  • 親族や知人の大工・職人が建てた
  • 住宅ローンを利用しなかった
  • 自分たちで工事に関わった
  • 登記について深く考えないまま住み始めた

といった事情のある古い住宅では、後になって未登記だったことが判明することがあります。

義父の場合も左官職人でした。

自分自身も家づくりに関わり、「自分で建てた家」という意識が非常に強かったのでしょう。

ところが、建物そのものは立派に存在していても、登記という手続きは別です。

まさに我が家にとっての「昭和時代あるある」でした。

本当に困ったのは、ここからだった

未登記だった。

それだけなら、必要な資料をそろえて手続きを進めればよい。

ところが、今回は大きな問題がありました。

義父にはすでに認知症の症状があったのです。

「この家をいつ、誰が、どのように建てたのか」

本人に確認したくても、昔のことを正確に説明してもらうことが難しくなっていました。

家族がもっと早く気づいていれば――。

そう思っても時間は戻りません。

古い建物の場合、建築当時の資料が十分残っていないこともあります。

そこで重要になったのが、長年その土地で暮らしてきた人たちとのつながりでした。

助けてくれたのは、ご近所さんだった

幸い、義父には長い付き合いのあるご近所の方がいました。

昔から義父を知り、その家が建った頃の事情も知っている方です。

その方に協力していただけたことで、手続きを進めるための大きな助けとなりました。

このとき改めて感じたのは、

不動産の問題は、書類だけでは解決できないこともある

ということでした。

何十年という時間が経てば、当時の書類はなくなります。

建築に関わった人もいなくなります。

そして所有者本人も、高齢になれば記憶が曖昧になったり、意思確認そのものが難しくなったりします。

そんなとき、昔からその土地で築いてきた人間関係が、思わぬところで助けになることがあります。

終活で確認しておきたい「固定資産税の納付書」

この経験から、古い実家の終活を始める方に一つおすすめしたいことがあります。

固定資産税の納税通知書・課税明細書を、一度じっくり確認してみてください。

「毎年ちゃんと固定資産税を払っているから大丈夫」

と思っていても、土地と建物は別です。

そして、固定資産税の課税と不動産登記も同じ制度ではありません。

気になる点があれば、登記事項証明書などで現在の登記状況を確認してみることも大切です。

特に、親や祖父母の代に建てた古い住宅、自分たちや親族の手で建築した住宅などは、一度確認しておく価値があります。

元気なうちに確認する。それも終活の一つ

今回もっとも苦労した原因は、建物が未登記だったことだけではありません。

それが分かったときには、義父本人から詳しい事情を聞くことが難しくなっていたことです。

不動産の整理は、相続が発生してから始めればよいとは限りません。

本人が元気で、昔のことを説明できるうちに、

「この土地は誰の名義なのか」

「この建物は登記されているのか」

「昔の資料は残っているのか」

を確認しておく。

それだけでも、後に残される家族の負担は大きく違います。

そして最後にもう一つ。

長年のご近所付き合いに助けられることもあります。

登記も大事。

書類も大事。

でも、何十年という時間を経た不動産では、人との付き合いまで大切な記録になることがある。

義父の未登記事件は、そんなことまで教えてくれた出来事でした。

ちなみに妻の母は、今でもこの話になると、

「あんなに自分が建てたって威張ってたくせに!」

と怒ります。

建てるところまでは完璧だった義父。

どうやら最後の「登記」だけ、忘れていたようです。