なぜ土地家屋調査士は三角点が気になるのか――20年ぶりの与那国島旅行から
妻が20年ぶりに与那国島へ行きたいと言い出した
腎生検という、なかなか大変な検査を終えた妻が、ある日「20年ぶりに与那国島へ行きたい」と言い出した。
与那国島といえば、日本最西端の島。
もちろん観光で訪れるだけでも十分に魅力のある場所である。
ところが、妻が調べていたのは少し違った。
「日本最西端の杭はどこにあるのか」
「一等三角点が島内に2か所あるらしい」
20年前に訪れたときは、ごく普通の観光旅行だったという。
しかし今回は、どうやら旅の趣旨そのものを変えるつもりらしい。
これは実に興味深い。
与那国島の観光記なら、いくらでも見つかる。
だが、最西端の杭や一等三角点を目的に島を歩く体験記となると、私は聞いたことがなかった。
そして土地家屋調査士という仕事柄、「三角点」「基準点」「境界を示す杭」と聞けば、どうしても気になる。
妻をねぎらう旅行のはずが、いつの間にか私自身も興味を持ち始めていた。
そこで10月の結婚記念月に合わせ、20年ぶりの与那国島旅行を計画することにした。
普通の人には「ただの石」かもしれない
山頂などで三角点を見つけて、記念写真を撮ったことがある方もいるだろう。
中には、
「これが山頂の印なんでしょう?」
と思っている方もいるかもしれない。
しかし、三角点は山頂を示すために置かれているものではない。
三角点は、国土の位置を測るために設置されてきた測量の基準となる点である。
とりわけ一等三角点となると、土地家屋調査士としては少々見方が変わってくる。
「ここから国土を測ってきたのか」
そう考えると、地面から少し顔を出した標石が、単なる石には見えなくなる。
土地家屋調査士は「ここ」にこだわる仕事である
土地家屋調査士の仕事では、土地の位置や形状、境界を扱う。
一般の方から見れば、
「だいたい、この辺でしょう」
と思えるような場所でも、仕事となればそうはいかない。
土地の境界が数センチ違えば、隣接する土地との関係も変わる。
まして、図面を作成し、登記に反映させるのであれば、「だいたい」では済まされない。
どこを基準に測ったのか。
その基準は正しいのか。
測量した結果にどの程度の精度があるのか。
そんなことを日常的に考えていると、旅先で基準点を見つけても素通りできなくなってくる。
ある意味、職業病なのかもしれない。
三角点と境界杭は同じものではない
ここで一つ注意しておきたい。
三角点や公共基準点と、土地の境界を示す境界標は同じものではない。
三角点などの基準点は、位置を測る際の基準となるもの。
一方、境界標は土地と土地との境界を現地で示すために設置されるものだ。
役割は異なる。
しかし土地家屋調査士の仕事をしていると、どちらにも共通する「位置を明確にする」という考え方に敏感になる。
だから旅行先で「最西端の杭」と聞けば、
「その杭は何を根拠に、そこにあるのだろう?」
と考えてしまう。
普通の観光客とは、少し違うところが気になってしまうのである。
測量技術が進歩しても「基準」はなくならない
現在の測量ではGNSSなどの技術が利用され、昔とは測量の方法も大きく変わった。
衛星から得られる情報を利用して位置を求める時代である。
だからといって、基準という考え方が不要になったわけではない。
むしろ測量技術が高度になればなるほど、
「その数字は何を基準にしているのか」
ということが重要になる。
どれほど高性能な機械を使っても、基準となるものが曖昧なら、得られた数字の意味も曖昧になる。
私が測量の精度にこだわる理由も、結局はここにある。
行政書士の仕事でも土地を見ることがある
私は土地家屋調査士と行政書士、二つの資格で業務を行っている。
行政書士が三角点を使って測量をするわけではない。
しかし行政書士として仕事をしていても、農地や土地利用など、土地に関係する手続きに接することがある。
書類の上では一筆の土地であっても、現地へ行けば道路があり、水路があり、高低差があり、隣接地がある。
土地は紙の上だけに存在しているわけではない。
土地家屋調査士として現地を見る感覚と、行政書士として制度や手続きを見る感覚。
二つの仕事をしているからこそ、「土地」というものを少し違った角度から見るようになったのかもしれない。
そして、目的地は日本最西端の島へ
そんな私に妻が持ち込んできたのが、
「与那国島の一等三角点を見てみたい」
という話だった。
これは面白い。
日本最西端の碑を訪れ、青い海を眺め、与那国馬を見る。
それももちろん与那国島の旅である。
しかし、その足元にある「日本の位置を示してきたもの」を探して歩く旅があってもいい。
20年前には観光客として訪れた島を、今度は三角点や基準点という視点から見てみる。
同じ島でも、見える景色はきっと違うだろう。
「そこにある理由」を見てみたい
三角点そのものは、決して派手なものではない。
知らなければ、そのまま通り過ぎてしまうような存在である。
しかし、その一点には測量の歴史があり、現在の国土へとつながる「位置」の情報がある。
土地家屋調査士という仕事をしていると、そんな目立たない一点が妙に気になる。
妻をねぎらうために始まった20年ぶりの与那国島旅行。
どうやら今回は、普通の観光旅行だけでは終わりそうにない。
日本最西端の島で、私たちは何を見つけるのか。
そして実際に一等三角点までたどり着けるのか。
その結果は、旅行から戻ったら改めて書いてみたいと思っている。

