土地は資産ではなく、責任だ──土地家屋調査士の視点から見た「手放せない老い」
親世代と子供世代、土地に対する価値観の大きなギャップ
かつて、土地は「持っていれば必ず値上がりする資産」だと信じられていました。バブル期に、別荘地や山林、原野を投資目的で購入した親世代。彼らにとって、土地は「富」の象徴だったのです。
しかし今、子供世代にとって土地は──「売れない」「管理できない」「税金だけがかかる」──そんな負債となっています。
親世代=土地は資産
子供世代=土地は負債
この価値観の決定的なズレこそが、今の相続問題、負動産問題の根底にあります。
土地家屋調査士として見てきた「放置された土地」の現実
私たちの仕事の現場では、日々こうしたケースに直面します。
- 所有者が昭和のまま何十年も変わっていない土地
- 相続登記がされないまま、相続人が何代にもわたり膨れ上がった土地
- 家族すら存在を知らなかった山林や原野
- 売却できず、管理放棄されたまま荒れる別荘地
いざ名義を整理しようとすると、相続人を全員探し出さなければならず、費用がかさみ、誰も手続きをしたがらない。結局、何十年も放置され、次の世代へ先送りされる。そんな土地が、日本中に静かに、しかし確実に増え続けているのです。
負動産の背景──原野商法のツケが、今になって噴き出している
1970年代後半から80年代にかけて、日本では「原野商法」と呼ばれる手口が横行しました。住むには適さない山林や原野を「将来開発計画が入る」と偽って高額で売りつける悪質な商法です。
多くの人が、現地を見ることすらなく土地を購入し、配偶者に内緒で購入した例も少なくありませんでした。今、こうした「存在すら知らなかった土地」が相続の場面で表面化し、
- 相続登記義務化により処理を迫られる
- 国庫帰属も容易ではない
- 固定資産税と管理責任だけが重くのしかかる
そんな負動産問題が、現場では確実に噴き出しています。
なぜ今、相続登記義務化と国庫帰属制度が生まれたのか
負動産問題が社会問題化した結果、国も動き出しました。
- 2024年(令和6年)から、相続登記は義務化(3年以内)
- 2023年(令和5年)から、不要な土地を国庫に帰属させる制度が開始
これらの制度は、「土地は持っているだけで責任が発生する」という現実を制度的に可視化したものです。しかし、手続きを進めるには膨大な準備書類や費用が必要であり、簡単には国庫帰属できません。
放置された土地が生む「負の連鎖」
管理されない土地は、やがて社会問題を引き起こします。
- 空き地の雑草や不法投棄
- 倒壊寸前の空き家問題
- 固定資産税未納による自治体財政への影響
すべて、土地が「誰のものかわからない」まま放置された結果です。
土地家屋調査士として伝えたい「本当の終活」
本当に必要な終活とは、単なる形式的なエンディング演出ではありません。
- 持っている土地を見直し
- 使わない土地は生きているうちに手放し
- 相続される人に負担をかけない
それが「責任ある旅立ち」を準備するということです。
土地は資産ではありません。土地は責任なのです。
そしてそれは、命を終えるときに家族に遺す、最後の静かなメッセージでもあるのです。